相続税対策等では、親族間での不動産売買が必要になることがあります。
この際、「不動産業者を介すべきか」で迷う人も少なくないと思います。
税理士や法律家の間でも、「不動産会社を介す必要性は低い」等という意見を持つ人がいて、判断に迷うところです。
専門家の間でも意見が分かれるということは、個別の案件ごとに判断が必要になるケースがあるということを意味しています。
この記事では、親族間売買における注意点等を交えつつ、契約費用の相場について解説していきます。
不動産業者の必要性
親族間売買のコストは、不動産業者を介すかどうかによって大きく変わります。
不動産業者を介さないで契約をする場合、司法書士や弁護士等に契約書の作成を依頼するケースが多いと思います。
この場合、10万円程度で書類作成をしてもらえるようです。
では、「不動産業者を介した方が良い場合」とはどんな時なのでしょうか。
不動産業者を介すと、契約書とは別に重要事項説明書という書類も作成されます。
理由の1つとしては、この重要事項説明書が必要になる場合が考えられます。
重要事項説明書は、宅建業者によって発行できる書面だからです。
金融機関等からの融資を受けて不動産取引を行う場合には、借入先機関から重要事項説明書の提出を求められます。
親族間売買の場合、融資を受けないケースも多いので、「不動産業者はいらない」という事になるのだと思います。
記載内容と契約後の対応
その他の理由(不動産業者を入れるメリット)としては、専用の書式や、特約条項等において経験を活かした契約内容となる点だと思います。
司法書士や弁護士の場合、契約書についての法律知識はありますが、不動産取引の実務経験には乏しい事が殆どです。
この為、法律で定められた記載事項に終始してしまいがちです。
不動産取引には、トラブルになりやすい事項等があり、この点を網羅した文章の記載は不動産取引経験の豊富な業者でなければできない部分もあります。
しかし、親族間売買の場合、相手が他人ではありませんから、それほど大きなトラブルになることも無いでしょう。
このような事情から、「法律家の作成で充分」という結論になりやすいのだと思いますが、近隣トラブル等が発生した場合には、仲介業者の方が面倒見が良い面もあります。
法律家でもトラブル対応はできますが、契約後の業務については別途費用がかかるはずです。
個人的には、親族間といえども、相手が遠い親戚等の場合には不動産業者を介すことが望ましい場合もあると思います。
本当に重要なのは取引価格
親族間売買では、「誰が契約書を作成するか」よりも大事なことがあります。
それは、『誰が取引価格を決めるか』です。
親族間売買の取引は、時価(実勢価格)で行わなければなりませんが、少しでも安く子供に渡したいというのが実際のところです。
ですから、親族間売買では、少し安めの価格で取引されることが多いです。
しかし、価格を安く設定しすぎてしまうと、実勢価格との差額分について「贈与(みなし贈与)」と判断されてしまう事があります。
そこで、税務調査に引っかからない程度のギリギリのラインで価格設定ができる専門家が必要になります。
この価格設定には、一定の根拠に戻づいた不動産評価計算が必要です。相続対策を得意とする税理士や、不動産鑑定士によって税務署を論破できるだけの根拠を持つことが、みなし贈与の回避に繋がるわけです。
相続の専門家が必要
ここまでのお話で、親族間売買の取引価格の重要性がお分かりいただけたと思います。
このようなポイントを理解すると、「普通の不動産業者を介すのは役不足」という結論に達します。
法律家に契約書の作成を任せるにしても、取引価格の重要性は変わりません。
つまり、どちらに依頼するにしても、正しい評価能力を備えた専門家と連携している相手に作成させる必要があるということなのです。
ADVICE YOUでは、不動産鑑定士や、不動産評価に強い税理士と連携し、適正な取引価格を実現します。
不動産のプロも連携していますので、重要事項説明書の作成にも対応可能です。
親族間売買のコストも考慮しよう!
親族間売買の目的は、将来の相続税を減らすことにあります。
収益物件の建物だけを移転することにより、物件から発生する利益を子供に移すという目的で取引されることもあります。
そして、親族間売買の際には、他にも注意しておきたいコストがあります。
通常の相続で不動産を受け取る場合には、原則として不動産取得税や譲渡所得税がかかりませんが、親族間売買の場合では、通常の不動産取引と同じ扱いになります。
この為、譲渡益に対して所得税がかかりますし、不動産を取得した側にも取得税がかかります。
また、所有権移転登記の費用についても、相続登記の場合に比べて費用が高くなりますので、緻密な計算による検証が必要です。
譲渡所得税の計算ポイント
代々、先祖から受け継いできた土地等の場合、契約書等が存在しませんので、取得費用が不明確です。
譲渡所得税の計算をする際には、不動産の売却額から、取得費や売買諸経費等を差し引くことが許されています。
ここで差し引ける金額が大きければ、所得税が安くなります。
親族間売買の契約書等を不動産業者が作成した場合、仲介手数料が発生していますので、これを指し引くことができます。
土地の測量等について費用が発生していれば、これについても売買利益から差し引くことができます。
将来発生する相続税率と、譲渡所得税率を比較勘案する視点も持ってコスト管理をしておくと良いでしょう。
親族間売買の有効性を検証
親族間売買には、これらの費用がかかっても「やった方が得である」と断言できる根拠が必要になります。
親族間売買の契約にかかる費用も大事ですが、むしろそこに至るまでの検証と根拠の方が遥に重要です。
親族間売買には、正しい根拠を示してくれる税理士の力も欠かせません。
親族間売買の注意点
専門家から適正な取引価格を教えてもらえれば、自作の契約書で済ますことも不可能ではありません。
この場合、以下のような注意点をクリアできることが前提となります。
- 法律上で無効な契約書を作成してしまうリスク(自作リスク)
- 税申告に備え、契約書・領収証を正しく作成する
- 不動産トラブルが発生しない内容で契約書を作成する
- 遺留分の将来事情を考慮する
- 銀行融資を使う場合、重要事項説明書が必要になる
- みなし贈与とされない根拠を示す(契約書に記載)
まとめ
話をまとめると、親族間取引においては、その取引金額に応じて「完璧な契約書類」の必要性を考えると良いと思います。
契約書作成の費用としては、法律家なら10万円前後、不動産仲介会社なら売買価格の1~3%相当額です。
また、不動産業者を介す場合でも、一般的な業者ではなく、相続対策等に精通したコンサル知識ある不動産会社を選ぶことです。
このような不動産会社であれば、仲介手数料を満額で支払う意味もあると思います。